
いってらっしゃい! 野尻のおじいちゃん
野尻さん
ちょうど一ヶ月前、等さんがトレードマークのあご髭を剃ってくれましたね。
その顔見ては「おじいさんは髭があってもなくても男前だわ」と尉子さん、何度も言ってました。
昨日朝は旅立たれた野尻さんを見つめ「やっぱり男前だわ」本当にその通り。いつ、どこにいても野尻さんは正真正銘の男前だと私は思っています。
昨年8月に豊里にこられ、9月の交流会で「豊里実顕地に新配置になった野尻満」と大きな声で自己紹介される姿の清清しさに胸打たれたことを思い出します。
豊里での始まりは一生懸命にリハビリに励む日々でした。
車椅子に自分で乗り、愛和館に来れるようになった頃「愛和館の食事はどうですか?」と満喜子さんの質問に「愛和館 飯は旨いし さいもよし」と五七五で返す粋な野尻さん。
「さいはおかずの菜ですか?奥さんの妻ですか?」と聞くと、微笑むばかりで楽しそうな空気の中で満喜子さん「もっともっと」と促すと「車椅子 今日も行こかい 飯食いに」「満さん 百まで乗ってと 車椅子」等々、私たち介護部メンバーも刺激され、指を折りながら頭をひねって、ちょっとした五七五ブームにもなりました。
介護部メンバーに、野尻さんとの暮らしで印象に残ってることはと聞いてみると、「野尻さんの表情の豊かさだよね」の声が多かったです。身体がきつくて苦しそうな表情、残念そうな表情、はにかんだり、悔しそうな表情、思いっきり嬉しそうな表情などいろいろあるけど、どの表情にも前に進もうとする秘めた意思を感じ、添って一緒にと気がついたら逆に励まされてる気持ちになってるそうです。この数ヶ月体重が減って、体、顔やせていくけど、やつれた感じがしなかったことって不思議に思ってましたが、あの豊かな表情があるからなのかもとの声もありました。
どんな場面でも「エエナー」と優しさのにじむ表情も思い出します。服部さんに手を伸ばし、毎朝握手。
ベッドの上の暮らしになった3ヶ月余りの野尻さんの姿に介護部の役割、任など新たに考えさせてもらう機会になりました。
主治医はじめ周りの人たちから「もう少し運動をやろうよ」「ご飯もっと食べるようにね」とか「このままだと寝たきりになりますよ」と励ます言葉に「うんうん」とうなずきながらも投げかけられたことする気なしの日々。そんな野尻さんに私も焦る気持ちとなり、やる気が起こるには?ご飯食べれるようにといろいろなことをやっても、うまくいかず、落ち込む日々もありました。そんな一ヶ月を経た頃、おじちゃんから「リハビリ頑張り過ぎて一寸しんどかった」と話してくれました。
「皆が言ってくれてることはよう判ってる」とも言い「やってるよナー」とニッコリ。おじちゃん、よく見てるとベッドで横向きに、腰も浮かす等、出来ることはおじちゃんいっぱいやってるのです。おじちゃんがやろうとすることをやることに私は添っていくからと宣言し、それからはおじちゃんとの日々が楽になり、どんどんやせていくおじちゃんは明るくて、その頃から今までに増して「ありがとう」をいっぱい言ってくれましたね。
そして、6日前、おじちゃん起きてるでも眠ってるでもなく、目を宙に浮かすような動きの中、何か見えるのか手を伸ばしたり、つかもうとしたりしながらニコッと笑うのです。赤ちゃんが眠っててニッコリ笑うあの笑顔とまるで同じなのです。
目を開けると、その時の光景なのか、一生懸命に話してくれるのを聞いてると、まるでおじちゃん、原風景の場に居たんだと思いました。表情に邪気がないおじちゃんを見てる私はうっとり気持ちよい時をおじちゃんと過ごさせてもらいました。
いつもどこにいても男前のおじちゃん、最後まで格好いいです!
普段は「おじちゃん」時に心の中で「お父さん」そして実顕地の大先輩、野尻満さん、見ててください、実顕地一つを心に刻み歩いていきます。
最後にきっと、介護部一同、同じ気持ちでいると思います。
全員で「おじちゃん、ありがとうございました」
平成25年6月4日 波田順子